ハンニバルのルート
【ハンニバルの行軍ルート(緑線)と、逃亡ルート(青線)。この紀行は赤枠内】

<はじめに>

 紀元前218年の秋、今から2200年以上も昔になりますが、ハンニバル・バルカ(紀元前247−前183年)と象の数万のカルタゴ軍が、この南仏の地を東にアルプスを越えイタリアに進軍していったと歴史は語っています。
 そしてこれまでの調査・研究などから、ローヌ川からドローム川に沿って東に向かい、トラヴェルセッテ峠を越えるルートが、現時点では最有力候補とされています。

 ローマが帝国になる前、カルタゴとローマは地中海での覇権争いは熾烈なものでした。第一次ポエニ戦争(BC264-241)で、カルタゴはシチリアを失いますが、ハンニバルの父「ハミルカル・バルカ」はイベリア半島を制圧し、軍隊を養成。

 父の死後、長男ハンニバル・バルカは戦争を決意、ローマ同盟の都市サグントゥムを陥落、第二次ポエニ戦争が開戦した。
 スペインを出発してローヌ川まで約4カ月、連日10〜14km(17,000〜23,000歩/日)の行軍は、大きな戦闘がなかったとはいえ、大変な疲労が戦士たちには貯まっていたでしょう。その歩兵、騎兵、象、そしてたくさんの荷の数kmにも及ぶ塊が、この目の前の平原を川に沿ってさかのぼって行ったのです。

 私の峠の旅紀行の中で、これからアルプス越えまでの20日あまり(図の赤の枠内)を、当時の記録に沿って辿ってみます。(●次のポイント「 」、で順次進みます)

 皆さんも写真の風景の中に、「ハンニバルと象」の行軍シーンを思い浮かべ、一緒に峠道をイタリアに向かってみませんか。


ハンニバルのコイン肖像画

ハンニバル・バルカHannibal Barca (or Barcas) 生誕〜>

・紀元前247年(or246年)、カルタゴCarthageで生誕。父:カルタゴの貴族・将軍ハミルカル・バルカ(orバルカス)Hamilcar Barcaの長男。
・「ハンニバル」とは、「バール神の喜び/バアルの恵み/慈悲深きバアル/バアルは我が主」の意味。
・「バルカ」はあだ名で「lightning:雷光/電光/稲妻/電撃」の意味。
・3人の弟:ハスドルバル、ハンノ、マゴ
・ハンニバル9歳(or10歳)のとき、ハミルカルとともにカルタゴを去りイベリア(スペイン)に移る。
・紀元前221年(25歳)にリビュア・スペイン軍の総司令官に就任。イベリア半島を制圧し、諸部族をまとめて軍隊を養成。
・紀元前219年、ローマの同盟都市サグントゥムSaguntum(ザグント)を攻撃・包囲、8ヶ月後陥落。これによりローマはカルタゴに宣戦し、第2次ポエニ戦争が始まる。


ローヌ川のルート
【ハンニバルの行軍推定ルート:
●トラヴェルセッテ峠ルート=緑実線
●クラピエ峠ルート=赤点線】

<ここまでの進軍の状況>

・BC218年春(5月末)、軍はカルタゴの領土だったスペイン(Carthago-Novaカルタゴノヴァ/Cartagenaカルタヘナ)から出発し、ピレネー山脈を越え、約4カ月で1,220km(5,800スタディア)進軍しました。

・ハンニバルが、Vergezeヴェルジェーズに立ち寄り休息し、泉の水(Perrierペリエ)を飲んだという伝承がある。
https://www.perrier.com/【PERRIERペリエのスパークリングウォーター】
https://fr.wikipedia.org/wiki/Perrier_(eau_min%C3%A9rale)【wiki/Perrierペリエ(ミネラルウォーター)】

Polybiusポリュビオス(ハンニバル戦争終結60年後、スペインから、フランスアルプス、イタリア平野部まで実際のルートを踏破・目撃者に面談・記録した)は、ハンニバルがローヌ川を渡ったのは「流れが一本のところ」で、「海から歩いて4日の距離にあった」と述べている。(G-p48)

・アルル付近でローヌ川を渡ります。その地点が川幅が広く、水深が浅く、流れもあまり速くなかったようです。(G-p52-60)・・・右図参照



■参考資料:
本:Gavin de Beerギャヴィン・デ・ビーア著 『ハンニバルの象 ALPS and ELEPHANTS』時任生子訳:博品社(G-page)
本:John Prevasジョン・プレヴァス著『ハンニバル アルプス越えの謎を解く HANNIBAL CROSSES THE ALPS』村上温夫訳:白水社(J-page)
本:Hans Baumannハンス・バウマン著『ハンニバルの象つかい』大塚勇三訳:岩波書房:(H-page)
本:Polybiusポリュビオス著 『ポリュビオス 歴史〈1〉』城江良和訳:京都大学学術出版会(P-page)
本:The Green Guide:『French Alps』2020 Michelin:(M-page)